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《ビジネス×サイエンス》
#01 ビジネスと科学的手法

(目次)
■ 1. 企業戦略と情報 ~ビジネスケース~ (このページ)
■ 2. 企業戦略を支える科学の目 ~ケース解答~
■ 3. ビジネスと科学の相似形 ~科学研究例~
■ 4. 科学の基礎、ビジネスの基礎 ~失敗事例~
■ 5. 社会にもたらす価値 ~未来の展望~
■ 6. (次回以降の予定内容)
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「ビジネス×サイエンス」。

《ビジネスで力を発揮する科学的思考の技術》をテーマに、表層的な手法だけでなく本質的な理念にも触れながら、10回程度のシリーズで概論から具体的な各論まで取り上げる計画です。

大企業からベンチャー、行政機関など立場を問わずビジネスパーソンの方々にとって、科学的思考をビジネスに取り込む考え方に興味を持っていただくきっかけに本稿がなることを願っています。すぐに応用が効く実践的な技術や思考のヒントか、あるいは科学的な視点の基礎理念か、何がしか一助となる内容を見出していただければ幸いです。

また、科学研究の深い教養をお持ちの方には、その知識と経験が別の世界でも大いに活きることを、学生の方には、今の勉強や研究がキャリア形成につながる可能性を、それぞれ感じていただければと思います。

(本稿を構成する要素、科学的手法、ビジネス戦略、ITなどのそれぞれ専門の方は、ご専門の分野について筆者よりずっとお詳しいでしょうし、該当する部分は簡単すぎてつまらないと感じられるかもしれません。非専門分野との掛け合わせの面白さをご覧いただきつつ、専門の分野の知見をぜひご教示ください。)

シリーズ初回として、ビジネスの場での科学的手法の活躍と課題を、様々な具体的事例を取り上げながらご紹介します。

 

■1. 企業戦略と情報 ~ビジネスケース~

「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と孫子が説いた遥か紀元前の時代から、判断して行動を起こす際の「情報」の重要性は認識されてきました。軍事に限らずビジネスの場でも「情報」が決定的に重要であることは論を待ちません。

そして21世紀の現代。企業戦略のために求められる「情報を扱う技術」はどのようなものでしょうか。高度な情報技術にも簡単に手が届くようになった一方、溢れる情報の海の中で本当に必要な情報を探し当てるのはかえって難しくなった面もあります。10年前、20年前の一流の専門家も今では時代遅れと言わざるを得ない一方で、だからこそ変化の時代を生き抜く普遍的な思考技術が求められるとも言えるのではないでしょうか。

現代の企業戦略を支える「情報を扱う技術」を考えるためにまず、企業が情報に直面する具体的なシチュエーションから考え始めてみましょう。

(企業秘密の秘匿のため、現実に存在した状況から設定を一部変更してあります。現実に近い架空の設定としてご覧ください)

 

<ケース1 既存顧客を捉える>

ファッションビルを大都市圏で展開するA社。

得意とするメインターゲットの客層は20代30代の働く女性。百貨店の凋落傾向とともに出店を重ねて売上を拡大してきました。ですが、ファストファッションの流行もあって、近年は高成長にも陰りが見え始めました。さらに、既存店の近隣で再開発による競合店の開業がこれから相次いで予定されており、迎え撃つための対策が急務です。また、ネット通販の利用がじわじわ着実に広がっていることも気がかりです。

A社にとっては、新規顧客の開拓よりも既存顧客の維持に高い優先度を置くべき状況です。目指すのは、地域の顧客がこれまで自社店舗の愛用歴を持つのは大きなアドバンテージですから、それを生かして顧客によって異なるニーズに応じたサービスを提供すること。そして、新規プレーヤーがするように顧客が望まない販促情報を一律に押し付けるのではなく、顧客がそろそろと思うタイミングにスマートなホスピタリティで情報提供すること。

200万人のポイントカード会員について、以下の情報が8年前から蓄積されています。

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◆購入時の

  • 決済の日付、時刻
  • 購入店、フロア、コーナー、担当者
  • 購入商品の種別、個数、単価
  • 割引率、対象キャンペーン

◆ポイント付与時の

  • 購買ポイント付与: 日付、ポイント数、ポイント率
  • 来店ポイント付与: 日付、店舗

◆購入者の

  • 年齢、性別
  • 会員歴の年数
  • ポイント残高
  • 居住市区町村

※個人情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス、誕生日)も記録されているが、個人情報保護のため目的外使用は不可。個人情報を消去し匿名化したデータを使用
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A社は、これらの情報をどのように使えば、競合参入時の顧客維持につなげられるでしょうか。

 

<ケース2 売れる売り場を作る>

冷蔵庫や洗濯機を手掛ける、白物家電メーカーB社。

日本のメーカー各社は目新しい付加機能を付けた新製品で競い、低価格を武器にする中国メーカーらと市場を分け合っています。小売業者は、一昔前の町の電器屋さんは勢いを失い、郊外型や都市型の家電量販店へと集約が進んでいます。メーカーにとっては、主要な小売業者にどのように自社製品を扱ってもらえるかが命運を大きく左右する環境となってきました。

小売各社も競争が激しく、売上を最大化するのに懸命です。そのため、売れる商品は前面に出し、売れない商品は取り扱いを縮小せざるを得ません。売り場の作り方次第でB社製品の売上を伸ばせることを小売各社に納得してもらえば、B社製品を積極的に売ってもらうことで拡販につながるはずです。

市場調査(ウェブアンケート形式)を行い、消費者3000人から以下の情報を取得しました。

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◆一番直近に、(家電購入を考える目的で)家電を扱うお店に行った際について

  • 1.購入した / 2.検討したが購入しなかった
  • 来店前の時点で、 1.目当ての商品があった / 2.目当てのメーカーがあった / 3.メーカーは決まっていなかった / 4.購入したい商品も決まっていなかった
  • 購入を検討していた商品の種類 (1.冷蔵庫 2.エアコン 3.テレビ ・・・)
  • 来店前の時点で、購入を考えていたメーカー名 (1.パナソニック 2.日立 3.ハイアール ・・・)
  • 店頭で、購入を考えたメーカー名 (・・・)
  • 購入した製品のメーカー名 (・・・)

◆その時のお店について

  • 行ったお店の種類 (1.大型家電専門店 2.大型ショッピングセンター 3.町の電器屋さん 4.百貨店 ・・・)
  • (家電専門店の場合)行ったお店 (1.ヤマダ 2.ヨドバシ 3.ビック ・・・)
  • そのお店の店頭で、その商品が取り扱われていたメーカーは (1.パナソニック 2.日立 3.ハイアール ・・・)
  • そのお店の店頭で、各メーカーの商品は
    • 1. 場所は: (一番目立つ場所 / 外通路に面した場所 / 内通路の中)
    • 2. 高さは: (地面の高さ / 腰の高さ / 目の高さ / 顔より高い)
    • 3. 展示台数は: (他社より多い / 他社と同程度 / 他社より少ない)
    • 4. ポップは: (他社より目立つ / 他社と同程度 / 他社より目立たない)
    • 5. 機能説明は: (詳しい解説 / 仕様一覧 / なし)
    • 6. 試用は: (自由 / 一部だけ / 実機だが試せず / モック)
    • 7. 割引は: (特別割引中 / 追加ポイント / 特になし)
    • 8. 販売員のお勧めは: (勧められた / 勧めないと言われた / 特になし)

◆各社の製品の情報

  • 各メーカーの商品について、購入するまでに
    • 1.以前に購入して使用していた (はい/いいえ)
    • 2.TVや雑誌、街頭などで広告を見たことがあった (はい/いいえ)
    • 3.知人や家族から話を聞いたことがあった (はい/いいえ)

◆各回答者の基礎プロファイル

  • 性別、年齢、職業、家族構成、世帯年収、居住都道府県

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B社は、これらの情報をどのように使えば、売上拡大につなげられるでしょうか。

 

A社、B社の2つのケースそれぞれで、与えられた情報をどのように使おうとお考えになったでしょうか。

(もちろん実際には、「情報が先で使い方が後」ではなく「目的が先で、そのために必要な情報を設計する」という手順を取ることが多いですが、例題としてお許しください)

 

続いて次ページで、これらのケースの解答を考えます。

>> 2. 企業戦略を支える科学の目 ~ケース解答~

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《ビジネス×サイエンス》
#01 ビジネスと科学的手法

(目次)
■ 1.企業戦略と情報 ~ビジネスケース~
■ 2. 企業戦略を支える科学の目 ~ケース解答~
■ 3. ビジネスと科学の相似形 ~科学研究例~
■ 4. 科学の基礎、ビジネスの基礎 ~失敗事例~
■ 5. 社会にもたらす価値 ~未来の展望~
■ 6. (次回以降の予定内容)
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